・・・私の子どもの頃、父が
「そんなに神様に頼むと、神様はうるさがりはしないか」と言ったら
「千に一つ聞いてくださってもありがたい」と母は答えた.

父からはよくひやかされていた.「又来たかと神様は後ろを向いているだろう」と.
すると母は「なかなか物を聞いて下さらんような神様の方がよい.ひょっとしたら聞いてくれるかもしれんと思うから参る.頼みさえすれば聞いてくれる神様なら参らぬ.」と父に答えた.そんな母だった.

本当は自分の力一杯を生きての願いであったのだ.

 おそらく私のふるさとの百姓の家庭は、こうした家が多かったのではなかろうかと思う.あるいは日本中の多くの家庭がこういうものではなかったろうか.

『民俗学の旅』宮本常一

by yoshiaki_works | 2010-02-21 11:43 |


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